公正証書遺言とはどのようなものですか。
公正証書遺言について説明する前に、遺言自体について説明します。そもそも遺言とは、(1)法的な効力を持たせる意図で(2)自分の死後のことについて指示をした(3)書類のことです。なお、書類でない形式は、原則として無効です。
わが国の法律上、遺言には種類がいくつかあり、そのうちの1つが公正証書遺言です。この公正証書遺言とは、公証役場にいる公証人という特別な公務員に依頼して作成する遺言です。(民法969条)
作成後の原本は、公証役場にて保管されます。依頼者本人は、いつでも謄本(=原本のコピー)を請求することができます(有料)。
自筆証書遺言との違い
この公正証書遺言とよく比べられるのが、自筆証書遺言です。
自筆証書遺言の場合、その内容のすべてを本人が手書きで作成しなければ、法的に有効な遺言になりません。
近年、法律が変更されて、自筆証書遺言でも遺産の品目についてだけは手書きでなくてもよいことになりましたが、それ以外の部分は最初から最後まで本人の手書きでなければ無効です。(自筆証書遺言について詳しくは「自筆証書遺言とはどのようなものですか。」をご覧ください。)
自筆証書遺言を作るには、事前に法的に間違いのない文章を考え、それを書き間違えないように清書しなければなりません。これは(おそらくあなたの想像よりも)気力も体力も消耗する作業です。高齢になればなるほど大変でしょう。その点、公正証書遺言には、この負担がありません。書くのは公証人だからです。
もちろん、遺言の内容は正確に伝える必要があります。例えば、所有する資産はどのようなもので、それをどこの誰に相続させようと考えているか、というようなことです。
しかし、それを遺言書という形にするのは公証人です。依頼者本人は、仕上げに署名押印するだけですから、自筆証書遺言と比べて負担が段違いに軽いのです。これは見逃せない利点でしょう。
また、これは依頼者本人にとって直接的な利点ではありませんが、検認という手続きが不要になるため、相続人の負担が軽くなります。(民法1004条1項・2項)
公正証書遺言の難点
公正証書遺言を作成するにあたり、明確な難点は相続財産に応じた手数料が掛かることです。資産総額が大きければ大きいほど、それだけ手数料が高くなるのです。また、戸籍や登記簿など書類の提出や、公証人との打ち合わせなど、こちらから公証役場に何度も出向く必要があります。
人によっては、公証人や証人に、遺言の内容が知られる点について抵抗感があり、これを難点と思うかもしれません。しかし、この点は考え方次第で利点にもなります。
遺言というものは、わずかな書き間違いによって、無効になったり、自分の意図とはまったく違う相続になる危険があります。自分1人で作成できる自筆証書遺言は、その危険を抱えた遺言ですが、公証人という法律の専門家が関わる公正証書遺言には、その危険がありません。
当事務所にご依頼いただいた場合は、公証人に要求される書類の用意やその提出などを、お客様の代わりにおこないます。
ただし、公正証書遺言の作成に関する事すべてを代理代行することはできません。例えば、依頼者本人が公証役場でしなければならないと法律で決められている手続きについては、お客様にお願いすることになります。(民法969条各号)
新しい方式の自筆証書遺言との比較
法律が変更され令和2年(2020年)7月10日から、自筆証書遺言にも公正証書遺言と近い効力を持たせることができるようになりました。
この変更によって、今まで公正証書遺言だけの利点だった、公的機関が原本を保管する点や、検認が不要になる点が、自筆証書遺言でも可能になります。(法務局における遺言書の保管等に関する法律6条1項・同11条)
注意点としては、自動的に自筆証書遺言の法的効力が変わるのではなく、自筆証書遺言を書いた本人が手続きをすることによって初めて新しい法的効力が与えられる、ということです。
この新しい方式の自筆証書遺言でも、本人が手書きする必要がある点は従来と変らないため、作成する負担については公正証書遺言のほうが軽いままといえるでしょう。
民法969条(公正証書遺言)第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
民法1004条1項・2項(遺言書の検認)第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
法務局における遺言書の保管等に関する法律6条1項(遺言書の保管等)第六条 遺言書の保管は、遺言書保管官が遺言書保管所の施設内において行う。
法務局における遺言書の保管等に関する法律11条(遺言書の検認の適用除外)第十一条 民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。