下田行政書士事務所

遺言の読み方は「いごん」ですか。「ゆいごん」ではないですか。

質問が指摘するように、遺言という単語は通常、ゆいごんと読みます。ですが、相続に関する法律や遺言の作り方などについて調べていると、いごんという読み方を見かけることがあります。違和感がありますね。

実は、どちらも正しい読み方なのです。それぞれどのような場合に使う読み方でしょうか。

いごんの遺言

いごんは、ある特定の意味に限定する読み方です。それは、相続に直接かかわる遺言の場合です。

相続に直接かかわる遺言とは、例えば、「妻には家屋敷を、息子には株式を、娘には銀行預金をそれぞれ遺産として残す」というような、自身の死後に法的な効力を持つことになる指示のことです。

しかし、この場合の遺言をゆいごんと読んでも間違いではありません。間違いではありませんが、いごんと読んだほうが意味や目的が明確になります。

ゆいごんの遺言

では、ゆいごんとは読むがいごんとは読まない遺言とは、どのようなものでしょう。

例えば、子供の結婚に猛反対していた父親が急死したとします。

その遺品の中から、つい最近買ったばかりと思われる結婚式用のスピーチ例文集が見つかった場合、それは反対を撤回して、結婚を祝福するという気持ちを伝える遺言と考えてよいのではないでしょうか。

この場合の遺言は、いごんと読んでは間違いで、ゆいごんが正解です。自身の死後に関する指示の意図がないからです。


別の例で、老いた母親が病院のベッドで、その子供3人に対し、「兄弟仲良く私の遺産を3等分しなさい」と言い残して亡くなったとします。この母親の言葉も遺言と考えてよいでしょう。

こちらは先の例と違って、遺産分配についての内容なので、自身の死後に関する指示の意図があるのは明白です。しかし、この言葉には法的な効力がありません。

ですから、この場合の遺言も、ゆいごんであって、いごんとは読みません。たとえ3等分したとしても、それは法的に強制されたからではなく、子供たちが自由な意思で母親の言葉に従うことを選んだのです。

遺言とは

誰かが自身の死後のために残す(残した)言葉は、すべて遺言です。また、上記の父親の例のように言葉そのものでなくても、そればかりか本人にそのつもりがなくても、遺族や関係者にとって遺言と受け取ることができるものもあります。それら遺言を普通はゆいごんと読みます。

そして、その中には、法的な効力を持たせる目的で作成された遺言があり、その意味に限定したいときにだけいごんと読むのです。

いごんゆいごんは、以上のような理由で読み分けできます。とはいえ、ここでは質問に答えるために説明しているのであって、通常は神経質に読み分ける必要はありません。あるいは、いごん読みを業界用語のようなものと考えても結構です。

ちなみに遺言や相続に関わる仕事をしている当事務所の人間も、普段はいごんを使っていても、お客様に説明するときはゆいごんを使ったりします。