遺言をパソコンやスマートフォンで作成しても大丈夫ですか。
この質問の趣旨は、「パソコンやスマートフォンなどで作成した①文書のデータファイル、あるいは②それを印刷した書面が、遺言として法的に有効か」、というものです。
結論からいえば、①も②もどちらも法的には無効です。わが国の法律上、遺言は一定の形式で作成しなければダメだと規定されており、データや印刷物はその規定から外れるからです。(民法960条ほか)
これだけ電子機器が普及した現在では不便に思える規定かもしれませんが、それが有効だとすれば、他人が誰かになりすまして遺言を偽造する、ということが簡単にできてしまうからでしょう。
遺言の種類
法律に規定する遺言の形式にはいくつかありますが、一般的には、公正証書遺言の形式か自筆証書遺言の形式かの、どちらかの形式で作成します。
公正証書遺言
公証人に依頼して作成する遺言です。(民法969条)
公証人が作成する遺言だけが公正証書遺言となるので、自作の遺言は、それが文書ファイルであれ印刷物であれ手書きであれ、公正証書遺言ではありません。
自筆証書遺言
全文を本人が手書きで作成する遺言です。(民法968条1項)
手書きでなければならないので、文書ファイルや印刷物では自筆証書遺言とはならず、法的な効力がありません。それどころか、せっかく手書きで作っても書き方が間違っていれば、やっぱり法的な効力がありません。
[補足]法律が変更され、平成31年(2019年)1月13日から、遺産の品目についてだけは印刷物でもよいことになりました(民法968条2項)。しかし、遺言の本文をすべて手書きしなければならない点は、変更前と同じです。
このように、法的に有効な遺言を作成するには法律によるルールが決められています。ルールに反した遺言は無効という厳しい法律です。
遺言は、本人の死後に発見されるものです。厳しい理由は、それが本当に遺言なのか、亡くなっている本人に確かめることができないからでしょう。
ルールを厳密に守っているからこそ、第三者から見て、遺言に違いないと判断できるのです。
電子署名入り遺言!?
技術的には電子署名というものが存在し、すでに実用化されています。ですから例えば、A氏が文書データに自分の電子署名をほどこせば、A氏が押印した紙の書類と同程度の信用を与えることが可能です。
しかし、電子署名がほどこされたデータの法的な価値は、その目的によって、有効になる場合と無効になる場合とに別れます。
例えば、株式会社を設立するときに必ず用意しなければならない定款という書類があります。これを行政書士が依頼を受けて作成する場合、昔ながらの方法では、実物の紙で定款の書類を作成し、仕上げに行政書士が押印すれば完成です。
電子署名の方法では、パソコン上で定款の書類ファイルを作成し、そこに行政書士の電子署名をほどこして完成です。この電子署名入り定款も実物の紙の定款と法的には同じものです。
このように、定款では認められている電子署名ですが、遺言については今のところ認められていません。
ちなみに、株式会社を設立するには、認証や登記といった手続きもする必要がありますが、それはまた別の話です。
民法960条(遺言の方式)第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
民法969条(公正証書遺言)第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
民法968条1項(自筆証書遺言)第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
民法968条2項(自筆証書遺言)第九百六十八条
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。