相続人の立場からは自筆証書遺言と公正証書遺言はどちらがよいですか。
まず最初に、法律が変ったことによる補足ですが、令和2年(2020年)7月10日から、自筆証書遺言は、一定の手続きをすることによって、公正証書遺言に近い効果を持たせることができるようになりました。(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条・民法1004条1項・2項)
その手続きをするかしないかは遺言を書く本人の自由ですから、自筆証書遺言には【従来型の自筆証書遺言】と令和2年7月10日に追加された【新方式の自筆証書遺言】の2種類が併存することになったわけです。
このページでは、以下「自筆証書遺言」という言葉が出て来たら【従来型の自筆証書遺言】のことを指し、「公正証書遺言」という言葉が出て来たら公正証書遺言と【新方式の自筆証書遺言】の両方のことを指すものとしてお読みください。
公正証書遺言のほうがよい
さて、結論から先にいえば、相続人にとって利点が多いのは公正証書遺言です。なぜなら相続の実際の手続きにかかる時間・労力など負担が軽いからです。
その点を比較するため、(1)遺言のない相続の場合、(2)自筆証書遺言がある相続の場合、(3)公正証書遺言がある相続の場合の3通りについて説明します。
(1)遺言のない相続
原則として、遺言が存在しない場合の相続は、遺産分割協議をしなければなりません。
この遺産分割協議とは、遺産について、誰が・何を・どのくらい相続するか相続人全員が話し合うことです。この話し合いによって合意した内容を書類にまとめたものを、遺産分割協議書といいます。
いってみれば、遺産分割協議書が遺言書の代わりとなるわけです。つまり、遺言のない場合の相続とは、話し合いによる相続ともいえます。
遺言がない相続(=話し合いの相続)は、相続人全員がすぐに合意できるなら、手間こそかかっても、いちがいに負担が重いとはいえません。
しかし問題なのは合意できない場合です。
相続人同士というのは、ハッキリいえばお互いの利害が対立する関係です。ある相続人の取り分が増えれば、すなわち別の相続人の取り分が減るからです。ここに、もめる要因があります
仮に、遺産が現金だけであれば、その数字を計算することによって平等に分けることができますが、平等であれば誰もが納得できるかといえば、必ずしもそうではありません。
まして、実際の遺産は、現金だけとは限らず、例えば不動産など、この世に同じ物が2つとないものが含まれます。
土地Aと土地Bの面積が同じでも、その所在する位置や交通アクセスの状況などによって金銭的価値は異なりますし、金銭的価値が同じだったとしても、どちらに高い価値を感じるかは人によって違います。
では、すべての遺産を第三者に売却してその代金を分け合えばいいかといえば、売却することに対して反対する相続人だっていることでしょう。
そうした意見がぶつかり合えば、話し合いでは決着が着かず、いわゆる相続争いとなって、年単位の時間がかかることも珍しくありません。
そこまで話し合いがこじれてしまえば、もはや当事者だけで解決することは不可能かもしれません。相続を済ませるためには、遺産分割協議による相続は諦め、舞台を裁判所に移すしかないでしょう。
法務局における遺言書の保管等に関する法律11条(遺言書の検認の適用除外)第十一条 民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。
民法1004条1項・2項(遺言書の検認)第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。