下田行政書士事務所

遺言執行者とは何ですか。必要ですか。

ごんしっこうしゃとは、遺言の内容を実現するために具体的な手続きをおこなう人のことです。

故人が生前にきちんと遺言を残しておけば、その内容はいずれ実現されることになります。ただし、速やかな実現には相続人全員の協力が必要です。

しかし、相続人の中に遺言内容に納得しない人がいたり、納得はしていても仕事の都合や病気などで協力が難しかったりすると、いつまでたっても実現しないかもしれません。場合によっては弁護士や裁判所など司法の手を借りなくては実現しない可能性もあります。

そこで遺言を書く本人が、あらかじめ遺言執行者を決めておけば、相続人全員の協力が難しくても、遺言執行者が単独で相続の実際の手続きを進めることができ、円滑な相続が期待できます。(民法1012条1項・2項

あるいは、遺言内容に納得しない相続人の中には、遺言に従おうとする相続人たちの足を引っ張ろうとする者がいるかもしれません。すると、遺言に従った相続は進まなくなってしまいますが、そんなときでも遺言執行者を決めておけば、そのような妨害行為を法的に無効とすることができます。(民法1013条1項・2項

遺言執行者は必要か

相続人たちの人間関係・利害関係が複雑だったり、遺産が多種多様だったりする場合には、遺言執行者がいたほうが相続は円滑に進むことでしょう。

とはいえ、遺言執行者を決めておくかどうかは、基本的に遺言を書く本人の自由です。決めておかなくても構いません。

ただし、遺言の内容によっては、遺言執行者を決めておかなければ、法的に実現できないものがあります

法律上、遺言執行者が必要とされる遺言の内容とは、以下の4つです。

それから、不動産を相続人でない誰かに贈る遺言で、相続人が協力しない場合は、事実上、遺言執行者がいなければ実現しないでしょう。

すべての相続人が協力的かどうかは、そのときになってみなければ誰にもわかりませんから、相続人でない誰かに遺産を贈る予定があるなら、遺言執行者を決めておくのが無難です。


なお、遺言執行者を遺言を書く本人が決める場合には、必ず遺言の中で指定しなければなりません。そうしないと効力がないからです。(民法1006条1項

例えば、自分より若く健康なAに遺言執行者を頼むとして、生前のうちに約束しておいたとしても、それとは別に遺言にも、「Aを遺言執行者に指定する」と書いておくことになります。

遺言執行者を必要とする遺言内容であるにもかかわらず、遺言の中に指定がされていないときは、利害関係者が家庭裁判所に請求して決めてもらうことになります。(民法1010条

[根拠法令]
民法1012条1項・2項
(遺言執行者の権利義務)

第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

民法1013条1項・2項
(遺言の執行の妨害行為の禁止)

第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

戸籍法64条

第六十四条 遺言による認知の場合には、遺言執行者は、その就職の日から十日以内に、認知に関する遺言の謄本を添附して、第六十条又は第六十一条の規定に従つて、その届出をしなければならない。

民法893条
(遺言による推定相続人の廃除)

第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

民法894条2項
(推定相続人の廃除の取消し)

第八百九十四条

 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。

民法1006条1項
(遺言執行者の指定)

第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

民法1010条
(遺言執行者の選任)

第千十条 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。