下田行政書士事務所

遺産分割協議書とは何ですか。

さんぶんかつきょうしょとは、相続人が相続について話し合った結果、その合意した内容を書面にまとめたものです。

相続は、現代のわが国では、法律に基づいておこなわれます。つまり、遺言があれば遺言に従うことによって民法902条1項同964条)、遺言がなければ相続人が話し合うことによって民法907条1項)、相続をおこないます。

遺言がない場合、何について話しあうかといえば、もちろん遺産の分け方です。誰が・何を・どのように分けるか、ですね。例えば、相続人がA・B・Cの3人だったとして、不動産はAが、銀行預金はBが、自動車はCが相続する、ということを3人の話し合いで決めます。

遺産である不動産や預金口座や自動車の、実際の名義の変更(所有権の変更)は、相続人全員の話し合いがまとまらなければ一切できません

この話し合いによる合意を得ずに、例えば、Aさんが法務局の窓口で「我が○○家では代々当主がすべての土地建物を相続することになっている。現当主は私だから、先日亡くなった先代当主の家屋敷の名義をすべて私に変更しろ」などと主張しても、不動産の名義は変更できません。それは預金でも自動車でも同じことです。

上記はオーバーな例ですが、相続の実際の手続きをするには法的に有効な根拠を示さなければダメということです。

では、Bさんが銀行預金を相続するにあたり、銀行の窓口でどうやって「この銀行預金は、相続人Bが相続することになった」という根拠を示せばよいのでしょうか。それには少なくとも2つの根拠が必要です。1つは、Bさんが間違いなく相続人であること、もう1つは、Bさんがその銀行預金を相続すると全相続人の間で合意済みであることです。

Bさんが相続人であることについては戸籍が確かな根拠になります。Bさんが銀行預金を相続すると相続人間で合意したことについては、相続人全員(A・B・C)が合意済みであることを示せば根拠になります。

合意済み」を示す、というのは具体的には、A・B・Cの合意内容を書面にして、それを銀行の窓口担当者に示せばよいのです。

この合意済みの内容を書面にしたものを遺産分割協議書といいます。

合意を形に

遺産分割協議書を作るのは、当事者である相続人の間で、後になって話を蒸し返されないために、という理由もあります。無用なトラブルを予防するためです。

例えば、相続人がAとBの2人いて、遺産として農地①と農地②があり、どちらも面積も金銭的価値もほぼ同じだったため、特に揉めることなくAが農地①、Bが農地②を相続すると合意したとします。

その20年後、新しく道路が建設されることになったなどの理由によって、国がBの農地②を高額で買い上げることになった場合、Aが「よく思い出したら私は相続に同意してなかった! 農地①も農地②も私が相続するはずだった!」などといい出すことも、絶対にないとはいい切れません。

そんなトラブルが起きても遺産分割協議書があれば安心です。合意という目に見えないものが形のある証拠として残っているからです。

逆に、遺産分割協議書を残していなければ、この冗談のようなトラブルも相続のやり直しにまで発展しかねません。相続(遺産分割請求権)には時効がないからです。

裁判になったら、Aの主張が全面的に認められるかもしれませんし、あるいは、土地の買い上げ代金をABで半分ずつ分けろという判決になるかもしれません。いえ、たとえ元々の相続のとおりの判決が出たとしても、裁判に巻き込まれること自体が大変な負担です。

[根拠法令]
民法902条1項
(遺言による相続分の指定)

第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。

民法964条
(包括遺贈及び特定遺贈)

第九百六十四条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。

民法907条1項
(遺産の分割の協議又は審判)

第九百七条 共同相続人は、(中略)いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

民法897条
(祭祀に関する権利の承継)

第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。